羽毛布団偽装問題について一言いわせていただきます。
2016/05/10

(平成28年)5月7日の朝日新聞朝刊に寝具業界の問題が掲載されました。
新聞の見出しはこちら、
『羽毛布団産地偽装か 業界団体が警告文「仏産の半分超」』
記事を要約すると
- 実際とは異なる産地が表示された多数の羽毛布団が市場に出回っている疑いが出ている。
- 羽毛布団の業界団体は事態を重く見て、フランス産として売られている羽毛布団について「半分以上は産地偽装」などとする警告文書を加盟社に送付していたが、消費者には公表していなかった。
- ある羽毛業者は「加工過程の中国で、高価な欧州産に低価格の中国産を混入させ水増ししている」と証言している。
- 朝日新聞は独自に「関東の量販店3店、中部の量販店、卸売会社、通販会社」から計6点の羽毛布団を購入。それぞれから取り出した羽毛をベルギーで産地分析調査を行なった結果、5点で産地表示に疑義が出たとしている。
3面には、「『今回は値段優先で』といった羽毛布団の産地偽装を示唆する業者のやり取りの音声記録も入手した」と記事にしています。
今回の記事で名前があがった「日本羽毛製品協同組合」は、ホームページを見てもらえば分かりますが、国内の羽毛布団メーカーのほぼ全てが加盟しています。
理事長は、業界大手の羽毛寝具職域販売会社の社長さんですし、西川産業や西川リビングといった大手寝具メーカー西川各社の製造部門の会社も加盟しています。
この団体に加盟している会社の製品を合わせると、日本の羽毛布団市場の8割以上を占めているんじゃないかと思われる程です。
残りの約2割は海外製羽毛布団の輸入品や、独自で原毛を輸入されてオリジナル生産をされている分ではないかと思われます。(*割合はあくまでも私個人の想像ですのでご了承ください。)
私の店で取り扱っている羽毛布団も、当然こちらの団体に所属している会社から仕入れています。
現在当店で扱っている羽毛布団の製造会社は、「西川リビング」「西川産業」「昭和西川」の3社です。
今回の記事が出て、上記の3社には今回の問題に関する見解を確認しました。
3社とも「今回の問題には該当しない」と、それぞれの品質管理に対する考えを話してくださいました。
(詳しい内容は、確認内容と同じ事をきちんと3社とも、素早くホームページにアップしていますのでそちらを確認ください。「西川リビング」「西川産業」「昭和西川」)
今回の問題、私は羽毛布団を販売している人間ですので、もし偽装商品を販売していたとなると責任が生じる大問題です。
(確認の結果、当店の仕入れた商品の中には偽装商品はありませんでした。ホッとしています。)
ただ無責任に聞こえるかもしれませんが、製品を仕入れて販売する人間としては、「製造元を信頼する」それしかないのが現状です。
販売店レベルで出来る事といえば、
- 「商品課の人に品質管理の話を聞く」
- 「製造工場に出向いて製造工程を自分の目で確かめる」
- 「水鳥の契約農場があればそこに行って生育状況を確かめる」
といったことですが、それは私も大事な事だと思い常々心掛けています。
ですが、これも結局は自分自身が全工程(商品企画・水鳥飼育・商品製造)を行なうわけではないので、その場その場の担当者を信じる他ありません。
今回のような問題の影響を受けないように、全国の寝具専門店の中には自社仕入れ・自社製造を行なっているお店もあります。
自分の目で原毛を確認して仕入れて、そして自分自身の手で羽毛を側生地に充填して羽毛布団に仕上げる。
とても素晴らしい事だと思いますし、私の店にも羽毛の充填機はあるのでこれからは取り組んでいく目標の一つだとは思っています。
ただ、全国の羽毛布団を販売しているお店が全て自社仕入れ・自社製造出来るかというと、それは現実的ではないです。
木綿わた布団の時代でも、綿は製綿技術を持った製綿所さんや問屋さんから仕入れるのが一般的でした。
それに、現地で見本を確認して仕入れたとしても、輸入段階で混入が起きるかもしれません。その点は製品仕入の場合と同じ事で、現地の羽毛原料業者を信頼するしかない事だと思います。
今回の問題は、日本羽毛製品協同組合の団体内で組合員に対して警告を出しているわけです。
警告を出している団体側は、どの組合員が偽装を行なっているか分かっているのではないでしょうか?
さらにガッカリなのは、問題を把握していながら、一般には公表しなかった点です。
その点はなぜ早くに公表しなかったのか不思議ですし、残念です。
今回の記事に「2012〜2013年、世界的に羽毛価格が2倍近くに高騰した。この状況が偽装を後押しした」
「高い『欧州産』に手が届かなくなる一方、通販を含め、布団の安値販売が激化」と書かれていました。
確かに2012〜13年は羽毛の価格が上がって、私のような地方の寝具専門店も商品価格が上がって大変な時期でした。
でも、それって厳しい事ですが反面しょうがないことだと思うんです。
羽毛って工業製品じゃないですし、ほとんどの羽毛が水鳥の肉を出荷した後の副産物なんで、いろいろな状況が重なって価格があがることはあります。
大事な事は、材料原価があがった品物を正直にその分価格を上げて販売出来るか、という事です。(けっして便乗値上げではありませんので、誤解のないようにお願いします。)
その当時、私の取り引きしている寝具メーカーは、ギリギリまで商品価格を上げないように努力してくれました。
ギリギリまで頑張ったその後は、販売店としては残念でしたが商品の価格は上がりました。
(仕入れ値があがりましたので、販売価格も相当分を適正に上げる結果になりました。)
例えると、3万円台の商品が5万円台に、10万円台の商品が15万円台になりました。
今回の記事に「この状況が偽装を後押しした」とありました。
ですが、これって「後押し」って事じゃなくて、「悪用」しただけではないでしょうか?
日本国中の寝具メーカーや寝具販売店が羽毛原料の値上がりで、「商品の品薄」、「商品価格の値上げ」、「お客さんの買い控え」、など見えない先行きに不安になっている時期に、さも商品を確保していたかのように装って利益を上げていたわけです。
この悪巧み、いったい誰が画策したのか・・・メーカーサイドか?販売店サイドか?
ただ悪巧みですから、リスクは当然あるでしょう。
いくら商売をがんばっているといっても、地方の販売店クラスでは偽装を働きかけてもメーカーは取り合わないはずです。
取引金額の大きな販売会社の働きかけでなければ、メーカーもリスクは犯さないと思います。
逆にメーカーサイドの画策があった場合も、数多くの販売店に話を持ちかけてはどこかから偽装の情報が漏れてしまいます。
メーカーサイドからの働きかけがあったと仮定した場合も、交渉相手は取引金額の大きな販売会社になると思います。
だんだん推理小説みたいになってきましたが・・・
ここは「音声記録」があると記事には書いてあったので、日本羽毛製品協同組合の幹部の方に、ぜひその音声記録を聞いて真相を究明してほしいと思います。
今回の偽装記事に限らず、一般の方も「羽毛布団」の品質表示に分かりづらい思いをされていたんじゃないでしょうか?
価格も1万円台から高額品になると数百万円台まである商品です。
いったい何が違うのか?
羽毛布団の中身のダウン(羽毛)の品質は、ダック(アヒル)よりグース(ガチョウ)の方が高品質といわれています。
(厳密にいうと違う部分もありますが、ここは大まかな分類で《ダックよりグースが上質》とします。)
ですがインターネットや通販では、ダックの羽毛を使った2〜3万円の品物にも『高級羽毛掛け布団』っていう宣伝文句が付いています。
2〜3万円の羽毛布団が高級羽毛布団だったら、数十万円する羽毛布団はいったいなんて呼べばいいのか?
寝具業界にいる私でさえ、答えの出ない宣伝文句がこの頃本当に多くなっていました。
こういった宣伝で品質の証明に使われているのが、今回記事に出ている「日本羽毛製品協同組合」が発行している「ゴールドラベル」です。
「ゴールドラベル」というのは、日本羽毛製品協同組合の品質基準(組成混合率、かさ高性、清浄度など)に合格した、最高級の羽毛原料と優良な側生地を使用し、適正な縫製で仕上げられた羽毛ふとんに発行されるものです。

「左から[プレミアムゴールド][ロイヤルゴールド][エクセルゴールド][ニューゴールド]のゴールドラベル。日羽協HPより」
また、使用されている羽毛の品質性能を表す意味もあって、「ニューゴールド」「エクセルゴールド」「ロイヤルゴールド」「プレミアムゴールド」の順に、要件を満たす羽毛の品質(ダウンパワー)が高くなります。(*4つとも“ゴールド”が付いてて紛らわしいですね。)
ただ、このゴールドラベル、イマイチ基準が明確でないというか、業界の人間が見るとこの品質でこのラベルが付いてんの???っていう、なんとも腑に落ちない商品がインターネットや通販で販売されています。
ラベルを付ける基準は正規にクリアしてるんでしょうが、例えば「詰め物:ホワイトダックダウン93%フェザー7%/充填量:1.2㎏入り/側生地:ポリエステル80%綿20%」の品質で、説明文にも「臭いややあり」とある商品が、上から2番目の品質の「ロイヤルゴールドラベル」という商品がありました。
消費者の方は、品質の善し悪しはよく判断出来なくても、「上から2番目のラベルが付いてる」「それなのに2万円しない」「安い!!」「よし!買おう!」「ポチッ!!」と、購入ボタンを押してしまうんじゃないでしょうか。
これってどうなんでしょう?
「ゴールドラベル」を付けている本来の意味から違って来ているように感じます。
この「ゴールドラベル」、寝具メーカーでも付けていないメーカーもあります。
「西川産業」は自社のラベルが品質の証としてゴールドラベルは付けていませんし、「西川リビング」もチェーンオリジナル商品など一部商品には付けていません。
大手寝具メーカーも、このラベルが消費者の購入判断に誤解を与えかねないと思っているんではないでしょうか?(私の推測です。)
ただ、国内で販売されている羽毛布団の商品品質を、一般の方でも判断出来る基準は必要でしょうし、それを表記する統一表示物(ラベル)は絶対あった方がいいと思います。
日本羽毛製品協同組合は、以下のようにホームページに掲げています。
開封して中身を見ることのできない羽毛ふとん等について、消費者の皆さまに信用してお求めいただけるよう、羽毛ふとんの品質基準の策定を行い、各事業者に対しゴールドラベル(品質推奨ラベル)を発行しております。
また、羽毛に関する国際機関との連携を密に行い、日本の羽毛製品の高品質化につとめております。
消費者の皆さまの心地よい眠りのために常に心を配り、厳しい目で事業者をチェックする機関、それが私たち日本羽毛製品協同組合です。
「終わりにお願い」
今回の偽装問題とは関係のないお願いになるかもしれませんが、掲げている文言の通り、ぜひ今回の偽装疑惑を契機に、従来の「ゴールドラベル」は廃止して消費者の方に分かり易い、統一基準の品質表示ラベルの再制定を行なってほしいと思います。
地方の布団屋のおやじからのお願いです。よろしくお願い致します。
(ふ〜長文で疲れた〜。読んでくださった方、お付き合いありがとうございました。)